桔梗高台と七飯町あかまつ公園 2024/11/21(木)

武者小路実篤の「友情」 最終回まで聴いての感想

 


 NHKラジオの朗読「友情」(武者小路実篤」が本日最終回でした。最初に思ったとおりの展開。仲田の妹・杉子に恋した野島は親友の大宮に恋心を打ち明け、大宮はそれに対して大いに協力したのだけど・・
あらすじはこんな感じです。

 杉子は大宮に思いを寄せるようになって大宮も次第に杉子に魅力を感じ始める。でも大宮は野島との友情を大切にして自分の気持は隠して杉子には敢えて冷たいと思える態度で接し続けます。やがて杉子の好意に気付いた大宮は野島の恋の邪魔をしないようにパリ行きを決意、実行する。
 一方、野島は人を介して杉子への思いを告白するも芳しい返事はもらえず杉子へ手紙を送るが帰ってきた返事は短くとても冷淡なものであった。失恋した野島はパリの大宮へ失意と悲しい思いを手紙にして送るが大宮から思いがけない手紙が来て愕然とする。

 大宮が同人誌に投稿した小説は実名で杉子と大宮の手紙のやりとりを文章にしたものであった。それには杉子が野島に対しては全く関心がなく、大宮に熱烈な恋情を抱いているのが記されていた。大宮は隠していた本心を遂に告白し、二人は結婚する事になったと。
 野島は泣きに泣いた、そして仕事(野島は脚本家、大宮は小説家)において必ず勝利してみせると誓うのであった。

 学生時代に読んだ夏目漱石の「こゝろ」に似ています。小説としての発表も「こゝろ」の数年後です。登場人物と関係を表にするとこう

夏目漱石 「こゝろ」 1914武者小路実篤「友情」 1920
K野島
「先生」大宮
お嬢さん(先生の妻となる)杉子(大宮の妻となる)

 違うところは
  • 「こゝろ」の「先生」は友人Kがお嬢さんに対する恋心を打ち明けても協力する気はなかったしKの裏をかくようにしてお嬢さんと結婚の約束をとりつける。
  • Kは自死するが野島は仕事で勝利する決意を固める。
  • 「友情」では大宮と杉子が結ばれてから先のことは書かれてないが「こゝろ」では「先生」はその後、人が変わったようになって妻に冷淡な態度をとるようになりやがて自死する。
  • 「友情」で恋の勝利者になる大宮は家柄、仕事、容姿、運動能力、性格において野島よりかなり優れているが「こゝろ」では恋の敗者になるKが容姿、学業成績において「先生」より上であった。
 さて、「友情」で大宮に対して杉子が惹かれて行く過程がなるほどと思ったのは、杉子は容姿端麗で明るい性格ゆえに思いを寄せる男性も多いいわゆるマドンナ的存在であったこと。杉子にしてみるとイケメンの大宮が自分に対し一切の関心を示さないことは気になったであろうし、逆にそれが大宮に対する興味をいやが上にも増して行ったであろうことです。一方の野島が仮に杉子に対して同様の態度をとったとしても多分杉子が野島に惹かれることはなかったとは思います。同じ事を言ってもイケメンとそうでない人では女性の感じ方は真逆になるというのはネットでも有名なことですよね。
 やがて大宮の冷たい態度が友情を大切にしているからと知った杉子は益々大宮が好きになってしまうわけです。
 杉子の熱烈なラブレターを受け取った大宮が次第に友情ガードを崩されていく過程は何となく滑稽に思えるほどでした。一番写りの良いと思われる写真を同封するあたり杉子のしたたかさが感じられます。
 それにしても手紙で表現される野島に対する驚くほど冷淡な杉子の態度についてはもう少し思いやりを持ってあげてもいいんじゃないかなと感じました。夏目漱石の「虞美人草」に出てくる外面如菩薩、内心如夜叉(げめんにょぼさつ、ないしんにょやしゃ)という言葉を思い出します。まあ、杉子は「虞美人草」の藤尾のような恐ろしい女性ではないですけど美しさに見合った優しさも持って欲しいなぁと・・

 野島の恋心ですが、大宮が杉子の色々な面を見るにつけ次第に心惹かれて行ったのに比べてほぼ杉子の見た目だけから来た一目惚れのように見受けられます。あとは勝手に杉子に対する観を美しく結晶化して行った感じがします。オイオイ、そんなんで一生を共にする相手を決めて良いのかよ・・と言いたくなります。しかもそんな相手と釣り合いがとれる自分であるかという自己評価を全く考慮していません。確か野島はこのとき23歳ですがそういう時代背景だったのでしょうね。今なら小学校高学年から中学生が経験する初恋みたいです。

 確かに容姿から受ける印象が良くなければ好きになることもないとは思いますけど、
さだまさしのコミカルソング・「雨宿り」の大ヒットからそれをシリアスでナイーブな内容で作り直した「もうひとつの雨宿り」の歌詞

♪~女は器量が良いというだけで幸せの半分を手にしていると誰か言った意地悪なお話、でもこっそりうなずいてる自分が悲しい~♪

 たとえそれが事実だとしても、遺伝子が決定する生まれついての容姿は年数を重ねて行くと次第に外見の印象が変わって来るんですよね。
昔、TVのCMで「祖父曰く、男の顔は履歴書」というキャッチがありましたけど本当にそうだと思います。女性も同様。私はもう仕事をしておりませんが以前は高齢の人に接する機会が圧倒的に多くて、その人の顔を見るとこの人の生き様がこのような顔を作るんだなと思うようになりました。その人の話し方、行動、考え方が顔に現れます。良い年齢の重ね方をしたいものです。


 
 
 


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