桔梗高台と七飯町あかまつ公園 2024/11/21(木)

十勝連峰ベベツ岳遭難事故(2021年8月10日)について考えてみた

  2021年8月10日に十勝連峰ベベツ岳山頂近くで雨と風の中動きが取れなくなった北海道外からの登山者(以降Aさんと書きます)が低体温症で亡くなるといういたましい遭難事故が報道されていました。2009年7月16日に8名の犠牲者を出した大量遭難事故のトムラウシ山に近い所で起きた類似の遭難事故ではないでしょうか?
この投稿はAさんを誹謗、中傷することを意図してはおりません。私自身が山で同様の状況に置かれたときに安全な登山を続けるために何が必要なのか考えて見るためです。

 台風から更に勢力を増して北海道に近づいた温帯低気圧のため前日深夜から早朝にかけて道南では土砂災害の危険ありと緊急速報メールが来ていました。報道によるとAさんは8月8日から入山して隣のオプタテシケ山まで縦走して10日にベベツ岳山頂まで戻る途中の午前11時半過ぎに行動不能に陥ってテントにくるまって救助を要請し、その後3時間くらいは連絡が取れていたけど午後7時前に心肺停止状態で発見されました。

 Aさんが入山した日の朝9時の天気図がこれです。関東地方にある台風はこの後進路が東へそれて行きますが九州の南西にある台風は日本列島に沿って北上してきます。この時点では北海道での日帰り登山ならば問題ないレベルだったと思いますが泊りがけで縦走するとなると危ないかなと思う状況だと思います。実際、ツイッターには登山計画を中止したという他の人の書き込みもありました。Aさんがどこから入山してどのようなルートを辿ったのかは私は知りませんがオプタテシケ山へ行ってベベツ岳に戻ろうとしたということはトムラウシ山側から来たとは考えにくいので望岳台か吹上温泉または十勝岳温泉から入山されたと仮定して考えてみます。

 遭難前日の8月9日の朝9時の天気図がこれ。関東地方にいた台風は東北の東海上にそれて行きます。一方、前日に九州の南西にいた台風は温帯低気圧になって中国地方の日本海側で大雨を降らせました。ヤマレコでこの日の十勝岳の山行記録を検索したら山頂付近は風速10mの強風だったそうです。翌日にオプタテシケ山まで行ったというAさんは美瑛富士避難小屋あたりに泊まられたのではないかと思います。昔は天気の状況をラジオの気象通報で聞いて天気図を作成して予想するものでしたが昨今はスマホで天気図や山の天気予報を見ることができます。電波が届いていることが条件ではありますけど。NTTドコモの4G電波使用可能範囲の地図を見ると十勝岳連峰は美瑛富士あたりまで届いているようです。私も大雪山系でスマホを使ったことがありますが画像データの送受信となると時間がかかり過ぎてエラーになる場合も。そんな状態ですから天気図を見るのは難しいのかもしれません。2019年に大雪山黒岳石室キャンプ指定地ではサイトの端でかろうじて使用できるレベルで天気予報はラジオが頼りでした。黒岳石室の管理人さんも翌日の天気予報情報が入ると幕営している人たちに教えてくれていました。電波状態の良くない場所ではラジオもデジタルよりはアナログの方が役に立ちます。雑音拾いながらでもかろうじて聞き取れるけどデジタルは全く受信できません。
 さてAさんが前日の山の天気予報情報を入手できたのか否かは知る由もありませんが翌日の早い時間に安全な場所まで移動できればオプタテシケまで行っても何とかなると考えた可能性はあるかも知れません。トムラウシ山大量遭難事故ではガイドが午後には天候が回復するというラジオの情報を頼りに行動を決定したようです。地上の天気は晴れても山の上では雲の中で雨ということは珍しくないですからできる限り山の天気情報を入手する努力は必要でしょう。トムラウシ山の遭難もエスケープルートとして天人峡に下山していたら全員生還できたかも知れませんね。

 遭難当日2021年8月10日の朝9時の天気図がこれ。これを見てこの日に登山を考える人はいないと思います。Aさんは縦走中だから山の中でこの状況に直面した訳です。かなりの強風が予想されるから避難小屋に停滞という意思決定をしていたら生還できたかも知れません。この日のベベツ岳山頂の最低気温は3℃しかありませんでした。
 実際はオプタテシケまで行って戻る途中のベベツ岳山頂手前で行動不能になって救助を要請していますから携帯の電波が届いていた訳ですね。でも考えてみたらもっと手前のオプタテシケあたりから行動が厳しくなって救助を要請しようとしても携帯電波が圏外でベベツ岳に登りながら電波の届くまで電話をかけ続けたという可能性もあるのではないかと思います。山頂は何とか電波が届くけどコル部では圏外というケースも多いですから・・
風は山頂部に近い方が強いですから電話連絡してから少し戻って風の当たらない場所で救助を待つという選択肢もあったかも知れません。低体温症になると正しい判断ができなくなるから防風防寒着はもちろん頭を冷やさないためのニット帽の用意も必要です。着替えやシュラフが濡れないようにしておくことが必須なのはトムラウシ山の大量遭難事故が物語っています。気温3℃で雨に濡れて風速15mの強風に当たれば体感温度は-10℃以下だったと思います。
 防水防寒用のウエアについて考えてみたいと思います。冬山での遭難で亡くなった人が裸になっていたという報告は結構あって矛盾脱衣という現象として知られております。長時間低温にさらされると体温維持のため体が熱を逃がさないようになり寒いはずなのに熱く感じてしまうそうです。矛盾脱衣まで行かなくても急登でとても暑い思いをして汗をかいて休憩するときにいきなり寒さを感じるということは日常の登山でも良く経験するところです。蒸し暑い夏に雨に降られてレインウエアを着て登攀を続けるとなおさら暑くなることもあり汗で服が濡れないようにするためには透湿性の高いレインウエアが必要になるでしょう。濡れた肌着が体に着いた状態で寒冷にさらされたら益々きついことになるのでベースレイヤーには速乾性のタイプが妥当。肌着では最近、内側から体が濡れないように超撥水のシャツなんかもありますよね。

 シュラフはこの日の気温だと夏用では濡れてなくても寒さに耐えられないでしょう。寒いときにはダウンの保温性が良いけど濡れると一気にしぼんで防寒性が著しく低下してしまいます。だからスタッフバッグかビニール袋に入れるかまたは最近の防水性ダウンのタイプを買うかということになるでしょう。露で濡れることも多いのでシュラフカバーも必要。NASAが開発したとか宣伝している防風断熱軽量のアルミシートを携行。アルミシートは冷気に直接触れる面に結露を生じるので使い方に注意が必要です。

 寒さを防ぐ昔の裏技として服の内側にクシャクシャにした新聞紙を入れるというのがあります。子供の頃、父に連れられて行った山で防寒着が薄くて寒さに震えることがありましたがこの裏技で全く寒さを感じないで無事に下山することができた経験があります。

 縦走だと装備重量がどうしても多くなるからできるだけ軽量コンパクトなものをそろえたいですよね。でもそれなりに費用がかかるのが辛いところ。少しずつそろえていこうと思います。

 悪天候での登山は晴天時とは全く違う状況になるから安全が確保できる環境で敢えて悪天候に山を歩いてみるのも非常時の対応練習になるかも知れません。

 携帯電波が圏外だと救助要請は同行者か他の登山者に頼るか通信圏まで自力で移動するしかありません。天候情報もラジオだけになるので山の天気までは分かりません。そんな場合に強い味方になりそうなアイテムとしては双方向衛星通信機能のあるGarminのGPSMAP 66i があるけど税込み10万円近い出費が必要になるから私には無理かな?




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