待っていた花が咲いたよ 2024/5/1 水

47年前の遊楽部岳での滑落事故の経験 (その2)

高巻き
 沢を登っていくうちに両岸が切り立ったいわゆる箱になってきました。
幾つかの滝をよじ登り、登れない時は高巻きをして行きます。登れない滝の手前で河原がなくなり対岸へ渡るしかない状態に。しかし急流で深いのです。体の大きな部長がザイルを持って渡り、こちら側はOBが持ってビレイ。他のメンバーはザイルを掴んで恐る恐る渡ります。自分の番が来て驚きました。胸まで来る水の圧力の猛烈さ、足元で拳大の石がごろごろ転がっていくのが分かります。転がる石に足を乗せたら一巻の終わりです。すり足で進みやっとのことで全員対岸へ。更に高巻きをして進みますが草付という急峻な岩に苔や草が生えている足場。草付は雨が降ると滑りやすく、草につかまっても簡単に抜けてきて頼りにはなりません。

滑落
 そこで私の体が下へ滑り落ち始めました。ゆっくりなのですがどんどん加速していきます。草を掴んでもむなしく落ち続ける体。思わず体を横に回転させてつかまるものを探しますが気がつくと川へつながる崖の上に躍り出ていました。2階の窓くらいの高さです。眼下の河原が急速に迫って来ました。回転して横に移動したのが功を奏して一抱えほどの大きな岩の上に両手と胸、両足は河原という具合に5箇所に分散して衝撃を吸収することが出来ました。直後に15kgの荷物が背中と首に当たる強烈な衝撃。体は岩を跳び箱を越えるみたいに前に転がって倒れました。驚くことに打撲以外の怪我がありませんでした。
見ていた友人は、死んだなと思ったそうです。
仲間は崖をザイルで降りてきて私が無事だったことに驚きと安堵の表情をしていました。

ビバーク
 そもそも沢を間違えているので幕営地に到着することはなく日が暮れてきました。どんどん深くなる渓谷の川沿い、大きな岩に囲まれた空間にテントを張ってビバークすることに。雨は降り続いているので増水や鉄砲水が来たら逃げられません。眠れぬ夜を過ごします。このとき全員が新聞の見出しを想像していました。
「高校山岳部7名が遊楽部岳で遭難」


 増水はしましたがテントは少しの浸水で済み、生きて朝を迎えることが出来ました。水をたっぷり吸ったビニロンテントをパッキングするときの大きさには驚くばかり。テントは部長のSさんがキスリングの上に乗せて縛りました。
2日目も危機が襲います。

(その3へ続く)


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